2007年11月15日木曜日

障害学は、ザクザクと収穫が。

ここ1~2年ほど(いや、3年ほどか?)、障害学関係の出版が、充実しています。
9月に星加良司さんとシンポジウムで同席する前までに、著書を読んでおきたかったのですが、
(大阪まで、持参したものの・・・パラっと開いて終ってしまった・・・)
ようやっと読んだのが、前回10月の東京出張時。
いやぁ~、面白かったです。
それと、今、読みかけているのが、杉野先生の本。
星加さんの本については、めずらしく?、感想を書いていたので、載せておきます。





※ICF(国際生活機能分類)の能天気な説明を、しばしば、耳にしますが、杉野 昭博『障害学―理論形成と射程』は、 ICF(国際生活機能分類)への障害学からの批判や異同も、丁寧に扱っています。

星加良司,2007,『障害とは何か ディスアビリティの社会理論に向けて』,生活書院.
2007年10月29日(修正11月15日)

骨太で、論文構成がしっかりとしており、さらに―ここは特筆すべきと考えるが―その論文構成に破綻がない本(論文)を、久々に読ませてもらった。
さすが博士論文、と呼ぶべき内実をもっており、大学院生は、よき手本として検討すべき本である。
そして、障害学理論の、現時点での一つの到達点ではなかろうか。

この本は、自他共に認める理論書であるが、ご自身が設定したディスアビリティ理論に求められる性能に「解消可能性」(実践的な課題に対して貢献しうる理論になっているかどうか)を挙げているが、一読した感想では、かなり、イケると思う。
ただ、この直観が、もろ刃の剣かな、とも思えなくもない。
というのも、この本は、確かに理論書ではあるのだが、認識枠組みの提示といった意味合いが強く、また、それも、ディスアビリティを構成する不利益を複数の要素間の関係性としてとらえる視点を強調しているため、何か言っているようで言っていない危険性もある。もっとも、本の中では、論証をしたり、寓話なども用い、例示もあるので、読み手・応用する側の問題になるといえるが。

著者によれば、障害(ディスアビリティ)とは、次のように定義される。
<ディスアビリティとは、不利益が特有な形式で個人に集中的に経験される現象である。>

※この定義の前段となっている<不利益>についても、周到な検討と定義がされているが、それはここでは割愛。

そして、<不利益の集中>について、「複合化」と「複層化」を指摘している。
たしかに、こう定義することで、「同定可能性要求」(障害者の経験する「問題」を他の「問題」から弁別された特徴的なものとして把握しうるかどうか)が、相当程度、満たされるように思う。
・・・と思う根拠の実例を出し始めると長くなるので、これも略。
ともかく、不利益の<集中>というのが、ポイント。

で。
個人的に最も印象的だったのが、第5章第2節の、「自己決定」をめぐる論考です。
初めて、読んで納得できる「自己決定」論に出会いました。
そう、そうなんだよ!、ということが随所に。
そして、ちょうど、先週(2007.10.26.)、自立生活センター・立川の理事会で、かなり話題になっていた”当事者主体”についてのことと、もろに重なる話が盛りだくさんで、正直、先行研究の論証等の理論・論理的手続きのところは、眠りかけながら読んでいなくもなかったのが(←不真面目)、いきなり目が覚めた!という感じです。

自分としては、理論書を読んでいるつもりだったので、最後の方にきて、まさに、あれこれ議題になっていた、現実の組織運営上の事項と、直接リンクする展開になったことが、自分が読んでいる状況を合わせて、非常に印象的だった。
これは、「使える理論書」であることを示していると思われる。
もちろん、使えるかどうか、これは、著者一人の課題のみならず、広く開かれた課題であると考えるので、そういった意味でも、大変、刺激的な良い本といえよう。
(ただし、学部レベルでは、難しくて、教材としては、そのままでは使えないだろうな・・・)

このように、研究者向きのみならず、障害分野で、日々、現場と格闘している方々にとっても、様々な示唆を与えてくれる本だと思う(分厚い本ですけどね)。
研究者業界ではない方々は、とりあえず、先行文献の検討のところは飛ばして読んで大丈夫である(と、思う)。その辺は、研究者業界のお作法のようなものだから(しかし、独善的な論理構成ではないことを示したり、従来の議論との関連を示すためにも、重要な手続きであるため、欠くことができない作業ではある)。
とはいえ、この本でも多く言及されている立岩真也さんの書いていることが、どうも、よくわかるようでわからん、と思っている人には、かなりわかりやすい整理がされているので、アンチョコとして活用可能かもしれない(もちろん、星加さんの論理展開に必要な文脈での整理なので、その辺は、取扱に注意が必要だが)。

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