2008年6月11日水曜日

見えないものをみる力

「私は自分では、アメリカンスタンダードとはどういうものかということを体得できている人間だという自負があったが、君の話を聞いていると、自分の甘さを今さらながら、嫌と言うほど思い知らされるよ」
「いえ、堀さん、これはアメリカンスタンダードなんて話じゃないですよ。船場の商いでも、これぐらいのことはします。ただ、我々は、経済成長という幻想の中で、頭を使うことを忘れたために、商いの基本を失っただけです」
(文庫版『ハゲタカ』下,p.64)


昨日(6/10)、帰り際に、いささか、立腹モードになってしまったため、精神衛生上、こりゃ、いかんと、ほんぽーとによって、『現代小説』に連載中の「レッドゾーン」=「ハゲタカ」の続編の最新号を読みにいっちゃいました(ホントは、貸出可になるまで、待つつもりだったのだが)。

ま、いずれは、このネタ、書こうと思ってはいたので。

文頭の引用は、「ハゲタカ」第1作目からの引用です。どういう流れなのかは、タイトルにも関連するので、注1)にゆずるとして。
上記の引用では、「船場の商いでも・・・」というところがポイントね。つまり、例えば、個別面接の技法だとか、仕事の段取りだとか、まぁ、いろいろ理屈はあるわけですが、結構、昔からあった”基本”が大事なんだ、ということ。

で。この記事のタイトル「見えないものをみる力」については、以下。

 鷲津は、窓際に立ち、眼下に広がる浜離宮を見下ろしていた。
 昼下がりの平日の庭園は、人もまばらだった。この庭園を造った人間は、いったいどうやってこの庭を俯瞰して見たのだろうかと考えていた。それぐらい庭全体にバランスがあった。しかし、このバランスは、高所から見ない限りなかなか分からないものだ。
 かつて、この国の人達にも、見えないものを見通す洞察力や眼力があったのだ。そんな力をいつからかなぐり捨ててしまったのだろうか。
(文庫版『ハゲタカ』下,pp.77-78)


そう、研究も、実践・プロジェクト進行上も、(そこにあるのだけれども表面上は)「見えないものを見る力」は、つくづく、大事で、その力をつけたいものだと思うのです。
で、「見えないものを見る力」は、知識や分析力もさることながら、洞察力・想像力が大事で。
後者は、いろんなフィクションにふれることが大切よね、と。
(決して、映画館に通う時間を捻出するための屁理屈、あるいは、言い訳ではない。ハズ。)

といったように、なんだか、最近、ヘタなノウハウ本やら、ろくでもない薀蓄書(テキスト、学術書、含む)よりも、良質なフィクションの方が、よっぽど、得るものが大きいと思うのでした(もちろん、良質な書物は得るもの多大)。
この前の記事にあげた、『新選組!』とかね(ま、これは、歴史モノなので、完全フィクションじゃないけどさ)。

なぜかといえば、人間や社会が、洞察力豊かに描かれているから。

ということで、授業の持ちネタとして定番「振り返れば奴がいる」第4回を使っているのですが、最近、DVDが出たらしく。ほ、欲しい・・・

「ハゲタカ」も昨年(2007年)MyベストTVドラマ、なのですが(と力説して、何故か、兄弟子から冷ややかな視線を受けましたが)、原作小説版も、ちょいと設定が違うものの、もう、面白くてね。







語りはじめるとキリがないので、とりあえず、続編(おそらく最終?)「レッドゾーン」につながりそうな、そして、この記事に関連するところだけでもあげると・・・⇒続きを読む...
「今となっては日本が世界に誇る数少ない宝の一つ、金型技術の一流どころを、我々はほぼ手中に収めた。さらに、将来の自動車産業を左右しそうな先端技術を誇る部品会社も手に入れた。経営を我々に委ねることで、技術力の向上と後継者の育成に専念できると知った彼らが、見る見る生気を取り戻したのも承知の通りだ。そして次の段階で何が起きるか」
「トヨハシも日産もみな我々に頭を下げて部品を買うことになる」
前島がそう答え、全員が歓声を上げた。鷲津は彼女を指さして軽く手を叩いた。
「前島、そんなレベルじゃない。日本のメーカーがこぞって我々の技術にひれ伏すんだ。そして、連中に思い知らせてやるんだよ。ものづくりの原点を忘れたらどうなるのかをな」
(『ハゲタカⅡ』下、p.28)

(ちょっと解説)
ジャパン・パーツ:プラットファーム方式、つまり、同じ業種の複数の会社を個別に買収し、それを一つにまとめることで総合力と競争力のある新たな会社を生み出す方式。ジャパン・パーツは、日本の自動車製造の細部を担う町工場二十数社を買収して誕生させた自動車総合部品メーカー。故アランが生前からこつこつと買い集めてきた事業の集大成。

「ものづくりの原点を~」というくだりは、”鷲津@サムライ”らしい台詞ですが、”組織モノ”に弱い私としては、「経営を我々に委ねることで~」という指摘が、興味深い。
物語的には、「レッドゾーン」では、このジャパン・パーツが、買収されるんですよね・・・(う~ん、続きが楽しみ)。
そして、今までは、どちらかというと、大企業が多く登場していたのが、「レッドゾーン」では、町工場が出てくるので(芝野が手がける)、このへんの、組織規模・形態の違いが、楽しみです。

「(略)連中は特機部が獲れなかったら、その腹いせに御社を潰しにかかるかも知れません。」
「まさか、そんな子供じみた……」
芝野はそう言ったが、加地は険しい顔をしていた。
「芝野さん、そういうところ、昔と変わりませんね。ビジネスとは数字と道理だけで回っているなんて思っていませんか。ビジネスを動かしているのは、私情と欲望、そして怨恨です。アメリカには、女を取られた腹いせに相手の会社を乗っ取って話だってあるんです。アメリカという国はメンツが全てです。侮らない方がいい」
(『ハゲタカⅡ』下、p.116)


”情・私情”の側面を、アラン(謎の死をとげた)は、鷲津やリンに、散々、仕込まれていて、その含蓄あるやりとりも散見されるのですが。
物語的には、「レッドゾーン」に、やっぱり出てきたか、ゴールドバーグ・コールズ(GC)、と。”上海のホリエモン”の略歴に、GCがあったあたりから、怪しいと思ったんだよね。
・・・次は、そろそろ、UTB絡みで、いよいよ飯島さんの登場、かな?(ワクワク)。

と、まじめな話なんだか、お楽しみの話なんだか、わからなくなったあたりで、ひとまず。

<注>
1) 債権譲渡の話(から買収の話)をしに、太陽製菓のオーナー一族の”社宅”に鷲津と堀が訪問し、あまりのオーナー一族の企業の私物化に対して、頭から湯気を立てて怒っていた堀が鷲津に、次のように問いかける(『ハゲタカ』下,p.58~)。
「一体、今日の訪問の目的は何だったんです」
(中略)
「今日の一番の目的は、連中がどういう人間なのかを知ることでした。そういう意味では、収穫は大でした」
「しかし、連中は我々の条件なんぞ、きっとのまんよ」
「大丈夫です。それは最初から期待していませんでしたから」

以下、その”収穫”について、言及されるのですが。・・・面接技法のよいテキストになります。






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